職場でのヒール・パンプス着用の強制をなくそうとする#KuToo運動が盛り上がっています。この問題、台湾やアメリカではどのように受け止められるのでしょうか?


今年の1月、グラビア女優の石川優実氏は、#MeTooにならい#KuTooというハッシュタグを作り、政府に対して職場でのヒール・パンプス着用の強制の禁止と、職場でヒールを履かなければならないという慣習をなくすことを訴えました。

その反響は大きく、2月に署名サイトができました。そして、6月2日ようやく、署名の結果を厚生労働省に届けましたが、根本匠・厚生労働相は厚労委員会で「業務上必要かつ相当な範囲かと思います」と答弁し、議論を呼び起こしました。

反響が#MeTooを超える #KuTooの社会的意義

ヒールが、フォーマルとプロらしさの象徴とされていることは、日本の職場においてのヒール・パンプスの強要から分かります。石川優実氏が作った#KuTooのハッシュタグは、「靴」と「苦痛」を掛け合わせて、#MeTooにならってできたものです。

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石川優実氏が#KuTooを呼びかけた背景は、職場においての経験でした。葬儀場で案内係をしていた彼女は、5〜7センチのヒールの黒いパンプスを履くように強要されました。一日中ほぼ立っているため、いつも傷ついた足で仕事をしていました。しかし、同じ職場なのに、男性はフラット靴を履いているという違いにがっかりした気持ちを、石川優実氏はツイッターにあげました。そのツイートは大量にリツイートされ、それを機に#KuTooというハッシュタグが作られました。

欧米やアジアなど世界規模で#MeTooの波が席巻していたとき、まだ家父長制社会の色濃い日本では、他の国と比べて#MeTooはそれほど大きな反響を呼び起こしませんでした。一方、日本が発起した#KuTooはかなりパワフルに見えます。女性が自分の権利を求めて立ち上がり、ヒールを脱ぐことができないという束縛に対し、不満を訴えました。#KuTooは日本だけでなく、いまや海外でも話題になっています。

最大野党である立憲民主党の衆議院議員で、LGBT権利の推進者でもある尾辻かな子氏は、女性にのみハイヒールやパンプスの着用を求めるというのは、時代遅れであり、ハラスメントにあたり得るものだと指摘しました。また、労働災害調査に基づく報告書によると、18歳から26歳の女性の労働災害が多発しており、その原因はハイヒールの着用が原因と推察できると記載されていることを取り上げました。

しかし、それに対して根本匠・厚生労働相は、「業務上必要かつ相当な範囲であれば」と、ヒールやパンプスを履くような強制を禁止しようとはしませんでした。他方、足をケガした労働者に必要もなく着用を強制する場合などはパワハラに該当し得る、と答弁しました。

ハイヒール革命:男性の権威の象徴から女性の束縛へ

今でさえ、女性に対する束縛と見なされているヒールですが、元々は男性が履くものでした。ヒールは中世ペルシャの騎兵隊が履くものだったと言われています。それがヨーロッパに伝わり、男らしさや、貴族である象徴とされ、王室の人々に人気でした。ヨーロッパで女性がヒールを履き始めたのは、優美に見えるためではなく、逆に、剛毅さを見せようとしたからです。そして18世紀半ば、ヒールは女性だけのものになりました。その後、ヒールはビジネスの世界において女性を束縛するものとなりました。女性にヒールを履くことを要求するのは、男性にスーツを着る、ネクタイをすることを要求することと同じだ、と思っている人は大勢いますが、ヒールが女性の足を害するのは紛れもない事実です。

世界が注目するヒール運動ですが、KuTooが最初ではありません。2015年、カンヌ国際映画祭では、ハイヒールを履いていない女優がレッドカーペットを歩くのを拒否されたことが発覚しました。ジュリア・ロバーツはそれに抗議するため、裸足でレッドカーペットを歩きました。

2016年、大手会計事務所で受付係として採用された、イギリスの女優ニコラ・ソープは、フラット靴を履いていましたが、ヒールに履き替えるよう言われました。断った彼女は給料をもらえずに追い出されました。彼女は運動を巻き起こし、イギリス政府にこのような強要を禁止する法律を定めるよう訴えかけました。その結果、15万人が署名し、最終的にその会社には法律違反という判決が下されました。関連団体も、職場にある差別同然のルールをなくすように法律を改正すべきだと指摘しました。

ビジネスニュースサイト、Business Insider Japanの編集部が行った調査によると、207人の回答者のうち、6割以上の人が「職場や就活などでハイヒール・パンプスを強制された、もしくは強制されているのを見たことがある」と回答しました。そのうち、女性の回答者は184人を占めていました。また、女性回答者のうち8割以上が、ヒールによる健康被害に苦しんでいると、4分の1がマナー講座などで「ヒールはマナー」という指導を受けたと答えました。

台湾の余宛如・立法委員(日本の国会議員に相当)は、フェイスブック上で#KuTooに対するコメントを書きました。「日本の女性国会議員と交流するたび、皆ほとんどスカートだなと思いました。日本ではスカートが正装だと知ったのはその後のことです。まるで私は礼儀知らずでしたよ。しかも、まさかヒールを履かなければならないとは、日本人女性って大変ですね。女性国会議員も一緒にスニーカーを履いて、女性をこういう慣習から解放するよう訴えるべきだと思います。」

女性として、スカートやヒールを履くかどうかは個人の自由であり、優雅さや美しさは主観的なもので、スタイルも自分自身で決めるもののはずです。社会に「こうするべきだ」と強要され、圧迫されたときは、立ち上がるべきなのです。

失礼にならないことよりも「自分に似合う」ほうが大事

日本がヒール革命を起こした一方、アメリカのオピニオンリーダーたちは、自分らしさを表すことを強調しています。不動産業界の女王と呼ばれる起業家、バーバラ・コーコランはBusiness Unusualというポッドキャスト番組において、リスナーから「どうすれば面接官にいい印象を与えられますか」という質問を受けました。

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コーコランは「ヒールを履く人は採用しない。履歴書を見るまでもない」と答えました。それでは厳しすぎるのでは?それもまた差別なのでは?という質問に対し、コーコランはこう語りました。「正しいかどうかは分かりませんが、私の観察によれば、そういう人は仕事をもらってもあまり真面目に働きません」。

ヒールを巡る論争は、職場において常に盛り上がっています。プロらしさ、マナーを象徴するヒールですが、それは確かに女性に健康被害を及ぼす、不適当な靴です。コーコランは、面接する際、自分らしさを表すのが大事だ、だからこそヒールを履く人には目を配らないと主張し、大事な会議ではもっと自分に似合う靴を履くべきだと強く呼びかけました。

今こそ革命の時 日本企業の変革

企業側は、マナーを口実に女性を傷つけることをやめるべきです。今変わろうとしている企業といえば、日本航空の子会社であり2020年に運航開始予定の中長距離LCC「ZIPAIR Tokyo」です。4月に発表した制服の靴は、男女問わず、黒か白のスニーカーで、客室乗務員のヒールというイメージを一新しました。スニーカーを採用することで、乗務員たちの負担を減らし、働きやすくするとのことです。

他にも、同じくヒールを履いているイメージがある保険業界でも、住友生命保険が支持を表明しています。同社は、社員の健康意識を高めようと、2018年から社員にスニーカー勤務などを奨励し、さらに6月からは「カジュアルデーを毎日に」という取り組みを始めました。内勤職だけではなく、客に直接対応する営業職も同様に奨励対象になっています。